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山口地方裁判所 昭和42年(ワ)205号 判決

原告 田中コト

被告 森田米治 外一名

主文

一、別紙目録記載の各不動産をつぎのとおり分割する。

1  別紙目録記載の各不動産は原告の所有とする。

2  原告は、被告森田米治に対し金三一万三、四三〇円、被告森田耕士に対し金二万六、一一九円をそれぞれ支払え。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「原告と被告らが共有している別紙目録記載の各不動産を、原告は一、五四二分の一、五二九、被告森田米治は一、五四二分の一二、被告森田耕士は一、五四二分の一の各割合に分割する。」との判決を求め、請求原因として次のとおり述べた。

一、別紙目録記載の各不動産は、訴外亡田中梅松の所有であつた。

二、右亡田中梅松は昭和三一年一月一九日死亡し、同日相続により、原告(五一四分の五〇四)、訴外亡佐伯ソノ(五一四分の四)、被告森田米治(五一四分の四)、訴外亡森田拓士(五一四分の一)、訴外森田和子(五一四分の一)がそれぞれ各人名下の括弧内の持分の割合をもつて本件各不動産を共有し、右亡森田拓士は昭和三六年三月八日死亡し、同日相続により、同人の右持分を、被告森田耕士(一、五四二分の一)、訴外森田京子(一、五四二分の一)、前記森田和子(一、五四二分の一)がそれぞれ各人名下の括弧書内の持分の割合でこれを取得し、前記亡佐伯ソノは同四一年七月二〇日死亡し、同日相続により同人の持分全部を訴外岡村幸子が取得した。

三、原告は、昭和四一年六月三〇日前記森田和子から同人の持分(一、五四二分の四)につき、同年七月七日前記森田京子から同人の持分(一、五四二分の一)につきそれぞれ贈与を受け、前記岡村幸子から、同四三年一二月一〇日別紙目録(一)、(二)、(三)記載の不動産に対する同人の前記持分(一、五四二分の一二)を、同年同月一二日同目録(四)、(五)、(六)記載の不動産に対する同人の前記持分(一、五四二分の一二)をそれぞれ譲り受けた。

四、以上のとおり、原告の本件各不動産に対する持分の割合は一、五四二分の一、五二九であり、被告森田米治、同森田耕士のそれはそれぞれ一、五四二分の一二、一、五四二分の一となつたところ、原告は右被告らに対し本件各不動産の分割を請求したが、被告らは右協議に応じない。

五、よつて、原告は請求の趣旨記載のとおり本件各不動産の分割を求める。

被告らは公示送達による呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しなかつた。

証拠〈省略〉

理由

一、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一ないし第八号証および弁論の全趣旨によれば、原告の請求原因事実は全部認めることができる。

二、そこで本件各不動産の分割方法について検討するに、検証の結果および弁論の全趣旨によれば次の事実を認めることができる。別紙目録(一)、(二)記載の土地は、数本の松樹、石灯籠、庭石の配置された庭園と畠地の用に供され、別紙目録(三)記載の一戸建日本建設家屋の敷地となつており、右家屋には原告と原告の養子親子の計五名が居住していること、別紙目録(四)、(五)記載の土地は、国鉄別府駅から鉄輪温泉に向つて北西二キロメートルの郊外にある住宅地で、右(四)記載の土地は宅地として、同目録(六)記載の日本建築家屋、付属建物と同建物の管理人居住の木造平家建居宅建坪約一〇坪、同倉庫約一二坪の各建物および庭木、石灯籠、池を配した日本式庭園があり、同(五)記載の土地は現況原野であるが、北西角地に訴外改直記所有の木造瓦葺平家建店舗兼居宅一四坪が存在し同人が占有していること、前記日本建設家屋は分割により著しくその価格を損するおそれがあること、原告は本件各不動産の競売による代金分割をきらつていることが認められる。

ところで共有は、数人が一定の割合において制限し合いながら共同して一個の所有権を有している状態であつて、各共有者の権利は持分の割合によりその分量および範囲に広狭の差異の存するものであるが、本件においては、前記説示のとおり、原告の本件各不動産に対する持分の割合は全体の九九・一%以上に該る一、五四二分の一、五二九であつて、被告らの持分の割合は併わせても〇・九%に満たず、本件各土地ないし家屋を現物分割した場合にはそれぞれ殆んど利用価値のない範囲を取得するにすぎないものとうかがえるのであるから、かような形態の共有において被告らの持分が原告の持分に与える制限は質的、量的に極めて僅少であつて、もはや、原告の持分は実質的に一個の所有権全部の内容にも匹敵し、他方、被告らの持分はその割合からすれば共有物に対する利用、収益権能が著しく微弱で、その管理、処分権能の行使は専ら原告に従属する立場にあるといえるのである。かように、被告らの地位がいわば原告の所有権に対する負担にすぎない共有関係においては、原告の共有物分割請求につき、被告らが原告の意に反してことさら現物ないし競売代金の形式的分割を固執することは権利の濫用として許されないものと解すべきである。

以上の説示と前記認定事実によれば、本件各不動産はこれを全部原告の所有とし、被告らは原告から本件各不動産に対する各持分の割合による評価金額の交付を受けることによつて本件共有物の実質的分割を完うすることが最も適切で妥当といいうるのである。もつとも、民法二五八条二項は共有物の裁判上の分割方法につき現物分割ないし競売による代金分割のみを定めているのであるが、かかる規定は、持分の割合に差異があつても各共有者がその割合に応じて同一内容の権利を有している場合を対象とし、本件のごとき形態の共有においては必ずしも右の他に一切の分割方法を禁止しているものとは解しがたい。

鑑定人尾中幻、荒金典夫の鑑定の結果によれば、本件各不動産の合計価額は四、〇二七万五、七九九円(円未満切捨て、以下同じ)であることが認められるから、被告森田米治の持分(一、五四二分の一二)価額は三一万三、四三〇円、被告森田耕士の持分(一、五四二分の一)価額は二万六、一一九円となる。従つて、本件共有物の分割は、本件各不動産全部を原告の所有とし、原告は被告森田米治に対しその持分価額三一万三、四三〇円を、被告森田耕士に対しその持分価額二万六、一一九円を支払うべきこととするのが相当である。

よつて原告の請求はこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 荻田健治郎 小川喜久夫 遠藤賢治)

(別紙)目録

(一) 防府市大字三田尻村字北洲ノ鼻壱壱八八番弐

一、宅地 四八坪

(二) 同所 壱壱八九番

一、宅地 七〇坪

(三) 同所 壱壱八八番地弐

家屋番号四〇〇四番

一、木造瓦葺平家建居宅

床面積 弐壱坪七合

(四) 別府市大字南石垣字鶴見原壱五壱八番ノ九

一、宅地 四壱壱坪

(五) 同所 壱五壱八番ノ壱弐

一、原野 壱反七畝拾五歩

(六) 同所 壱五壱八番地九

家屋番号南石垣弐七五番

主たる建物

一、木造瓦葺平家建居宅

床面積 四弐坪参合

附属建物符号1

一、木造瓦葺平家建物置

床面積 弐坪

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